アカデミー賞「作品賞」を含む計4部門にノミネートされた、ヨルゴス・ランティモス監督がおくる「ブゴニア」(エマ・ストーン主演)は、観る前には全く想像もしていなかった結末を迎え、観た後もしばらくその余韻が尾をひく。
以下では、ネタバレも含むので、まだ観ていない方はお含みおきを…!
いわゆる宇宙人がやってきた系の映画との比較
SF(Science Fiction)のジャンルに分類されるこれまでの映画として、ジョージ・ルーカス監督の「スター・ウォーズ (1977)」やスティーヴン・スピルバーグ監督の「E.T. (1982)」はあまりに有名だ。
さまざまなSF映画(小説含む)について、以下に分類してみた。焦点としては、以下の2点を軸として分けた。
⬛︎ 宇宙人は現実世界にいるのか/いないのか【現場の状況】
⬛︎ 宇宙人は人間に似ているのか/まさにエイリアンなのか【宇宙人の状態】

宇宙人だったとしても、風貌が人間のようであるのか、E.T.やヨーダのような緑色をしたエイリアンなのかというところで分けているが、物語の世界観として、人間と宇宙人がそれぞれ別の存在として共存していくのか、人間は存在せず皆人間の仮面を被ったエイリアンなのかという点も分割軸としている。
映画「ブゴニア」が、「異世界にて宇宙人と交流する&皆人間を装うエイリアン」に分類している点に、この映画の本質が見出される。
だれにとっての宇宙人か?
ここで一旦、映画のストーリーと登場人物についてまとめたい。
あらすじ
エマ・ストーン演じるミシェルは、科学技術系の会社を立ち上げたカリスマ経営者として、『フォーブス』でも表紙を飾るほどの人気女性社長である。
その会社の末端として、商品の梱包部門に勤務するジェシー・プレモンス演じるテディは、エイダン・デルビス演じる従弟のドンと共に暮らしている。

ドンは知的障害があると読み取れる描写があり、テディはそんなドンをうまく言いくるめて操っているかのような印象がうかがえる。しかし、物語が進むにつれ、その知的能力の差に付け入る感は薄まる。二人は真の相棒として見えてくる。
テディとドンは、日々身体的・精神的な鍛錬をこなしており、その目的は、世間から羨望の眼差しを向けられているミシェルを誘拐することにあった。
なぜミシェルを誘拐しなければならないのか?
それは、ミシェルが宇宙人だから。ミシェルは地球外生命体だが、人間のような風貌をして世界に溶け込み調和しながら、人間の範疇において、能力的に突出している存在であった。
ミシェルが地球にやってきた理由は、今後の人間の生存可能性について探るためにあったといえる。経営する科学技術系の会社は、表向きのもので、真の目的は人体実験を通して、人類存続にまつわる遺伝子研究を行うことにあった。
遺伝子研究のための人体実験で、犠牲になったのがテディの母親サンディであった。今では植物人間となり、延命装置なしでは生きられない。
この母親の一件をきっかけにして、テディはミシェルを調べたことで、宇宙人であるという結論に至ったのだ。

ミシェルが人体実験をしていたように、テディもまた宇宙人であるという確証を得るための人体実験を、他の人間で行っていた。作中では、ミシェルの他これまで2名がミシェルと同族の生命体であると突き止めたとされる。
ある日、ミシェルの帰宅時を狙って、ついにテディとドンは誘拐に成功する。
しかしミシェルは人間の範疇において、能力的に突出しているため、誘拐犯との巧みな交渉を繰り広げる。

ミシェルが富と名声を得た若く優秀な女性であることは、この交渉術から強く感じる。現実世界においても、こういった地位にある人たちは、誘拐時の心理的駆け引きなど、日頃から訓練しているのだろう。映画の描写でも、ミシェルが護身法の訓練を受けているシーンがある。
誘拐の目的は、身代金の要求とふんで交渉するが、テディの要求は違った。テディは人類の存続が危ぶまれていると気づき、ミシェルが本来生きる惑星にドンと共に連れて行ってほしいということが目的だったのだ。
結果として、ミシェルだけが惑星に戻ることになり、水面下で進めていた人類存続にまつわる人体実験も成功例は見出せず、地球は破壊すべき惑星であると判断される。
最後には、地球上にいる人類全てが息を引き取る描写で映画は結びとなる。
互いの惑星からみた視点

ミシェルにとってテディとドンは宇宙人であるし、テディとドンにとってミシェルは宇宙人である。この視点によって、最初に分類した「異世界にて宇宙人と交流する」物語といえる。
さらに、「人体実験」という同族が同族を、無慈悲にも実験台に使うというおぞましさは、ミシェルとテディの両方にみられ、そのことは「皆人間を装うエイリアン」たる所以である。
まるで日常で繰り広げられる異世界の物語
この映画の真骨頂は、日常生活のなかにSF要素をインストールしていることから、観る者がこれは宇宙人飛来物語なのか、最後まで確証が持てないところにある。
あらゆるシーンが、特権階級(カリスマ社長のミシェル)と貧困層(テディとドン)のリアルな描写に彩られ、ミシェルの思考と言動、テディの動向など、通常の人間社会におけるジレンマを据えていることから、登場人物たちが「宇宙人|エイリアン」であることが素直に受け止められない。
ブゴニア (Bugonia) の意味
古代ギリシア語の「βουγονία」を指し、蜜蜂は牛の死骸から自然発生するという考えに基づいた民間信仰である。そのことから、新しい生命は、腐敗と破壊によってもたらされるというメタファーでもある。
その時代に生きる者たちが、自らの存続に未来はないと気づいた時に、破壊を選択することで、結果的に次の世代の誕生を促す。これは現代の社会においてはあまりに空想的すぎるが、地球温暖化や核の問題などを抱える私たちは、実はその決断に迫られる時はそう遠くない未来かもしれないと思わせる。
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