昨今、日本国内では海外ハイブランド・ジュエリーを中心とした展覧会が開催されている。本ページでは、美術の文脈におけるハイブランドの台頭と、その理由について考察したことをまとめている。

ハイブランドの定義
そもそもハイブランドとは何だろう。値段が高いものという共通イメージは多くの人々が有しており、その根本には、「品質が優れている」ということがある。「質が高く、それに伴い価格も高い」、そういったものを提供できる、技術や信頼があるブランドとされる(老舗ブランド=メゾンともいう)。
「技術」は熟練の職人が技を成し、「信頼」は長い歴史によって裏打ちされ、「値段が高い=価値がある」という必然的構造を理解しなければならない。
3つのカテゴリー
世界的に有名なブランドを、「服飾」「ジュエリー」「香水」という3つのカテゴリーに分けてみた。

とはいえ、「服飾」カテゴリーの「プラダ」が、香水を展開することもあれば、「香水」カテゴリーの「シャネル」は、もともと帽子店からスタートしたので、「服飾」カテゴリーとも重なる。
他にも、「ルイ・ヴィトン」がもとはトランク・ケースを作ることからスタートしたメゾンであることや、今ではアイシャドウやリップなど、化粧品の人気も高い「ディオール」は、ファッションメゾンとして創業された歴史をもつ。
▶︎シャネルの歴史についてはこちら(シャネル公式ページ)
▶︎ルイ・ヴィトンの歴史についてはこちら(ルイ・ヴィトン公式ページ)
▶︎ディオールの歴史についてはこちら(ディオール公式ページ)
それぞれのメゾンの創業から現代の位置付けを考えると、やはり根幹には当初の専門としていた分野が活かされ、展開されてきたことがわかる。
ある商品がヒットしたら、事業拡大をしていくという戦略的展開に成功したメゾンが、今も残るハイブランド店といえる。
どんな展覧会が開催された?
過去4〜5年間で日本国内において開催された展覧会を以下にまとめてるが、とりわけ2025年は、ブルガリ、ルイ・ヴィトン、シャネル、ヴァン クリーフ&アーペルなど多くのハイブランドの展覧会が開催された。
ここでは、とくにハイブランド・ジュエリーとして特筆すべき「ブルガリ」と「ヴァン クリーフ&アーペル」について解説する。
「ブルガリ」は、1884年にイタリア・ローマでギリシャ人銀細工職人のソティリオ・ブルガリによって創業され、宝飾小物をはじめとした、華やかで色鮮やかなジュエリーを展開。
国立新美術館で開催された「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」展では、こうしたメゾンのはじまりから現在までを辿る作品群を通して、ブルガリのジュエリーに特徴とされる「真に色鮮やかな配色」について、そのアプローチに至る背景などに迫る。
同じくジュエリーメゾンとして有名な「ヴァン クリーフ&アーペル」は、1906年にフランス・パリで宝石商のアルフレッド・ヴァン クリーフとエステル・アーペルの結婚(1895年)を機に創業。
東京都庭園美術館で開催された「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル — ハイジュエリーが語るアール・デコ」展は、戦間期の1925年にパリで開催されたアール・デコ博覧会という、各国のデザインの最先端を見られる万国博覧会でグランプリを獲ったジュエリーが最大のみどころ。

展覧会メインビジュアルに掲載されているグランプリを獲った作品《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》(1924)
画像提供:https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/250927-260118_timeless-art-deco/
ブルガリが第二次世界大戦後に、それまで伝統的だった「プラチナ」や「ダイヤモンド」を用いた単色を基調とした「ホワイトジュエリー」から、カラフルな「サファイア」「ルビー」「エメラルド」との掛け合わせを行い、「色彩革命」を起こしたと考えると、ヴァン クリーフ&アーペルは、まさに1920年代にそのホワイトジュエリーにおいて席巻し、「造形と機能の追求」の頂点に達したメゾンといえる。
なぜ美術館で開催されるのか?
一見、ハイブランドと美術館での展覧会は、相入れないように思われることも多い。
とりわけ、国立・公立の美術館は、ともすると「企業のプロモーション」になってしまうリスクもある。その点は、美術館においてハイブランドを扱う際のテーマ選定や展示構成を練る際に、かなり慎重にケアしていると思われる。
実際、上述のブルガリ展やヴァン クリーフ&アーペル展の内実は、「メゾンの歴史や技巧の源泉」を、「社会的背景や思想的背景から読み解く」ことに重きが置かれている。
冒頭でも述べたが、「価格が高い=ハイブランド」というイメージは、追求すると「品質が高い」「最高峰の熟練技術」ということに起因する。
「表層的なイメージ」としてのハイブランドばかり先行してしまうが、本来はそれを裏打ちする「本質的な事実」が存在し、それを展覧会という形を通して発信している。
そういった展覧会は、「ものをつくること」「美しさとはなにか」「人が心ときめく瞬間の創出」という、「美術の文脈から語るべき事柄」を捉えるための足がかりとなる。
たしかに、現役メゾンであるため、ブランド名が展覧会タイトルに入ることや、作品を展示すること自体が、潜在的プロモーションになっていることは拭えない。
しかし、メゾンにとっても、その創業から現在に至るまでの「哲学」や「真髄」を美術の文脈で語ることによって、より多くの人々を「芸術の世界へ誘う」ことは使命の一つでもあるといえる。
多くのハイブランドが、「芸術振興」や「文化遺産保護」、そして「若手芸術家支援」のための財団をもち、活発に活動するのは、芸術の領域に属し、生かされているという自らの存在を認識しているからだ。
単なる「商売の世界」ではなく、「芸術の世界」に身を置いていることを自負しているからこそ、美術館におけるハイブランドの展覧会の開催は、自分自身の「存在意義の証明」といえる。
わたしたちも現にこういった展覧会へ足を運ぶと、「購買意欲をかき立てられる」ことよりも、「ものづくりへの真摯な姿勢」を目の当たりにし、「美しさの頂点」に触れ、「心躍る芸術体験」に魅了される。
純粋に、芸術を楽しむことが先に来るので、企業プロモーションの一貫というベールはあったとしても、見えづらい。
上述から導き出されることは、やはり美術館にとっても、ハイブランドにとっても、芸術の世界へ誘うという「使命を共にしている」ことは事実なので、「ハイブランド・ジュエリーの美術展覧会」の開催は必然であり、今後も隆盛していくと考えられる。
参考文献



